Cecilia『Adoration』~エモーショナルでエロティックな知性への招待状~

Rabitの『Les Fleurs Du Mal』でChino Amobiと共に妖艶な囁き声を響かせていたCeciliaことMelissa Gagneは、カナダのモントリオール出身で現在はイタリアのナポリを活動拠点にしている。これまでにもBlack Mammoth、Institutional Prostitutionなどのグループで活動していたようだが、その辺りの活動内容は不明。近年はBabi Audi名義でも活動していたが、すでに若気の至りとして葬られている模様。Cecilia名義としては2017年にYves TumorのレーベルGroomingから『Charity Whore』というEPをデータでリリース。このタイトルや『Adoration』の内容から感じ取れるのは、彼女にとってエロティシズムが創作の源泉の一つなのだろうという事。でもそれがどういう事なのかよく分からないし、Audre Lordeの著作「The Uses Of The Erotic: The Erotic As Power」からインスピレーションを受けているらしいけれど、それも読んでいないので、この際エロティシズムに関しては触れない。 “Cecilia『Adoration』~エモーショナルでエロティックな知性への招待状~” の続きを読む

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二人のアンダーソン

日本では今、才気溢れる二人のアンダーソンの新作が公開されています。一つはポール・トーマス・アンダーソンの『ファントム・スレッド』。もう一つはウェス・アンダーソンの『犬ヶ島』。

甘美な世界をポール自身による重厚なキャメラワークでなめるようにじっくりと映し出す『ファントム・スレッド』と、ポップで軽やかにカットを割って行くストップモーションアニメの『犬ヶ島』。対照的な作品ですが、テーマはやはり愛という事で、一致しているとも言えます。

phantom 名詞1 幻;幽霊、お化け(ghost);幻覚、錯覚 2 幻像、幻影;幻想 3 実体のない物 形容詞 幽霊の(ような);幻覚の;幻影の;外見上の;見知らぬ

thread 名詞1 糸、縫い糸((純化・宿命などの象徴))

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Sim Hutchins『Vantablank Stare EP』~内破する音楽~

PAN、Hyperdubから自身の作品をリリースするLee Gambleが運営するレーベルUIQ。エレクトロニックダンスミュージックの可能性を拡張するかのような、ユニークな音楽を提示し続けているレーベルです。フックアップするアーティストもUIQからリリースするまではあまり名の知られていない人が多く、N1L、Zuli、Lanark Artefax、Renick Bellなどは以前にも他の名義でのリリースがあったりする人もいますが、Lee Gambleのレーベルからのリリースという事で注目度がまるで違い、内容も素晴らしいものばかりなので、それ以降注目のアーティストとして認知されるようになるという素晴らしいレーベルです。Leeのシーンへの貢献度はかなりのものだと思いますが、本人はどこ吹く風と言った感じかも知れません笑 その飄々とした感じもかっこいい。

Sim Hutchinsの場合は上記のアーティスト達と少し経緯が違います。イギリスEssex出身のAUDIO/VISUALアーティストである彼は、現在Planet Mu/Knivesの運営に携わっているJoe Shakespeareのカセットレーベル(2015年に2作目としてKoenraad Eckerの作品を出して以降リリースが途絶えている)から2015年にデビュー作”Ecology”をリリース。そのEPに3曲プラスしたデジタル音源をがリリース。その後もとの関係は続き、2015年暮れに1stアルバム”I Enjoy To Sweep A Room”、2016にEP”Melanotan II / No Paco Rabanne”をリリース。デビュー作からかなりのクオリティーの楽曲を制作、そしてチープながらもいくつかの楽曲のVIDEOも作成されており、その中では哲学的あるいは社会風刺的な言葉がフューチャーされていたりもします。そういった彼の傾向は楽曲のタイトルにも表れていますし、”Hollywood10″というタイトルもあるくらいですから、映画史への関心の高さも伺わせます。そして1stアルバムに収録されている”Wasp Cell”のVIDEOはFACTmagazineでも紹介され、それなりの注目度を獲得していたと思われますが、その後に続いた2017年のUIQからの”Vantablank Stare EP”のリリースで、僕は初めてその名を知りました。 “Sim Hutchins『Vantablank Stare EP』~内破する音楽~” の続きを読む

Sonikku『Diamond Dust』~この一枚を再生するだけで、美しい世界が広がる~

Lobster Thereminの新しい(ambient専門?)サブレーベルからの第3弾としてSonikkuが登場。第1弾はLobsterにしては珍しくRashad Beckerをマスタリングに起用していて気合の程を感じましたが、両面ともにドロドロのドローンロングトラック1曲ずつ(両面ともに23分程度)で、こんなにドロドロの音楽に今の僕(退院後ほぼDJ以外仕事をしていない)は2000円出していていいのかと、とても悩み、naminohanaに行く度に何回も聴き直して(Rashadさんの音が大好きなので)いましたが、雨漏りで壁に陳列されていたレコード(の中の1枚で、いつも目に付く)が全部ダンボールにしまわれて、目に付かなくなってから次第に記憶の底に沈んで行きました。音の内容もそんな感じだったと思います笑。 “Sonikku『Diamond Dust』~この一枚を再生するだけで、美しい世界が広がる~” の続きを読む

Rabit『Les Fleurs Du Mal』~魅惑的世界への招待状~

Shapednoise『Deafening Chaos Serenity』に収録の「Pulling At The Seams Of Existence」でコラボレートし、同12″のスリーブに文章をも寄稿、思想的前衛総合芸術コレクティブNONのChino AmobiやElysia CramptonともよくつるんでいるRabitの事、この風変わりで奇妙なアルバムにも何らかの思想性が含まれているだろうが、今そういった側面について調べ、書き記す余裕は僕には無く、多くのリスナーにとってより重要なのは音の面であるだろうと想定し、ここでは音にフォーカスしてその魅力を語ってみたい。

男たちの話す声が聞こえ、弦楽器の荘厳な旋律が奏で始められる。その旋律に乗せて女性が、おそらくはフランス語で、語りかけるように、詩を朗読するように、語り出す。また違う女性の、サンプリングだろう少し遠い鳴りで、怒声が雷雨を背景に聞こえる。終始悲劇的旋律を奏で続ける弦楽器の、臨場感溢れる鳴りが素晴らしいPossessed。これをクラブの爆音で聴いてみたい。

電子的なある種の鳥の鳴き声のような音で始まり、浮遊感を感じさせる複雑な音響処理を施され、細かく左右にPANされながら、やがてリバーブの彼方へ消えて行きそうになりまた戻って来るメロディアスなシンセアルペジオの旋律が儚くも美しいBleached  World。これもクラブの爆音で聴いてみたい。

クレッシェンドするシンセストリングスで幕を開け、頭上をジェット機が飛び去るような立体的爆音が通り抜け、奇妙なこちょこちょいう音と細かい打撃音が続くが、MIXも小さめで踊れるようなリズムでもなく、あくまでも主体はこちょこちょいう音とシンセの旋律と3回頭上を通り過ぎるジェット機様の立体音である奇妙なRoach。

細かく、形容し難い音や打撃音が鳴り続ける中、ボトムをしっかりと、いや、危ういかも知れないが、支えている旋律はどこか悲劇的様相を次第に露わにするOntological Graffiti。これはクラブの爆音で聴くと印象が一変する予感。

赤児の鳴き声で始まるDogsblood Redemption。男が叫んでいる。SLAVEという単語が聞こえる。高域の音がチロチロと鳴り続ける。やがて性行為の喘ぎ声が響き渡り始めたかと思うと、すぐに途切れる。赤児と性行為。断片的にハードコアバンドの演奏が挿入されているようでもある。???な曲であります。

A面を締めくくるのは逆再生音がどこかBeatlesの「Revolution 9」を想わせる小品Prayer。

ゆっくりとしたパーカッションのリズムの上でヒョロヒョロと妙な音が舞っているThe Whole BagでB面が幕を開ける。背景ではインダストリアルな低音も響いている。最後に電子処理された男の声が響き渡り、終わる。

またヒョロヒョロした音が舞い、低い男の声がゆっくりと話す声が聞こえ、ピュンピュン飛び交うような立体的な音が続き、不意に光が射すような清らかで穏やかな音色の旋律に取って代わる。中国を想わせる弦楽器の旋律まで響き渡るHumanitys Daughter。美しい。

雷雨の様な電子音が終始響き渡り、その上を高音域の音がクロスするように鳴り響く。時折鋭いノイズが挿入され、次第にインダストリアルな音響が大きくなっていき、鋭利なノイズの頻度が増して行く。最後にはどこかの民族楽器のような音色の弦楽器が爪弾かれ、不意に途切れるRosy Cross。

いくつもの断続的で様々な音色の音が、定位もバラバラに鳴り、そこにテレビゲームの爆破音のような音が被り音量を増してゆくに連れて、さらにその下の底の方から湧き上がって来るようにクレッシェンドする和音の響きが、絶望と希望を同時に感じさせるようなOntological II。この不思議な感覚は何に由来するのか。

この逆再生音を聴くと反射的に「Revolution 9」を想起してしまうのですが、どこかコラージュ的な構成もどことなく似ている気がするPrayer II[Gemme]。後半はメロディックなキーボードの旋律が現れ、アタック音と同期する様にキックドラムの様な低音が鳴る。

再びPossessedと同じ女性によるゆっくりとした詩の朗読らしき言葉が連ねられる後ろの方で、亡霊の様に言葉を呟く者たちがいる。タイトルはElevation。アルバムのクロージングトラックだ。フランス語は全く分からないが、何かElevationについて語られているのだろうか?今、世界では崇高な精神が希求されているのは間違いないだろう。また中国を想起させる弦楽器の旋律が短く挿入され、始めから繰り返されている低いアルペジオが前面に出て来て、別の女性によって語られるものがこの風変わりなアルバムにおける最後の言葉となり、ドローン音によって全ては締めくくられる。

全体を通して言える事は彫刻的とも言えそうな立体的音像の素晴らしさ。それこそがリズムの有無を問わず発揮されるRabitの独創性だ。踊れるようなリズムは皆無である事が、この作品を新たな世界観の提示へと導いている。ベッドルームリスニングにも良し、クラブで鳴らしてみるも良し。聴けば聴くほど魅力が増して行くスルメアルバム。そこには新しい世界への扉が用意されている。

この幻想的な作品はあなたの音楽生活に、奇妙だが新鮮な彩りを加え、魅惑的世界へと誘うだろう。

(行松陽介)

Rabit – Les Fleurs Du Mal (Halcyon Veil) LP