Cecilia『Adoration』~エモーショナルでエロティックな知性への招待状~

Rabitの『Les Fleurs Du Mal』でChino Amobiと共に妖艶な囁き声を響かせていたCeciliaことMelissa Gagneは、カナダのモントリオール出身で現在はイタリアのナポリを活動拠点にしている。これまでにもBlack Mammoth、Institutional Prostitutionなどのグループで活動していたようだが、その辺りの活動内容は不明。近年はBabi Audi名義でも活動していたが、すでに若気の至りとして葬られている模様。Cecilia名義としては2017年にYves TumorのレーベルGroomingから『Charity Whore』というEPをデータでリリース。このタイトルや『Adoration』の内容から感じ取れるのは、彼女にとってエロティシズムが創作の源泉の一つなのだろうという事。でもそれがどういう事なのかよく分からないし、Audre Lordeの著作「The Uses Of The Erotic: The Erotic As Power」からインスピレーションを受けているらしいけれど、それも読んでいないので、この際エロティシズムに関しては触れない。

AQNBのサイトで彼女のMIXを聴く事が出来る。トラックリストも付いていて、メシアンやAisha DeviのレーベルDanse NoireがリリースしたGILの「Many」(日本の童謡がサンプリングされている)、BjorkやV1984、そして彼女がかなり影響を受けていそうなDiamanda Galasなどの曲が使われているが、ノンビートのところや賛美歌、民族音楽にビートを入れてくる辺りとか、かなりかっこいい。このサイトに埋め込まれているリンクから最近の作品はほとんど視聴できるようになっている。「視聴」と書いたのは、彼女が映像作家でもあるからだ。

https://www.aqnb.com/2018/05/22/farewell-misery-naples-based-producer-cecilia-shares-a-mix-explains-how-her-desolate-music-is-haunted-by-erotic-imagery/

BoomkatのレヴューではFelicia Atkinsonの『Hand In Hand』が引き合いに出されていて、確かにポエティックなところやアブストラクトな音響面ではかなり似た感触を持っているものの、1曲目の「Griselidis」なんかは強烈なビートが入って来るし、アブストラクトな側面だけを語っても片手落ちだろう。このBPM90のビートとMeredith Monkのような多様で重層的な声の使用、ハンドクラップ、ピアノの穏やかな旋律などが組み合わさって、なんとも形容し難い曲に仕上がっているが、一つ言えることは、この曲が掛け値無しにかっこいい、という事だ。DJでかけても映える。

2曲目の「Gros Animal」にも力強い断続的なビートが含まれているが、BPMは一定ではなさそう。ギターの弦をピックで擦るような音が不気味な雰囲気を醸し出している。9歳でエレクトリックギターを手にした彼女は、最初にMETALLICAとSLAYERの曲に取り組み、次第にその陰鬱な旋律のギターソロとそのピッキングの巧みさに夢中になったというのだから、この高音域の不可解で居心地の悪い音はSLAYERのギターソロのようなものなのかもしれない。そんな彼女とは意気投合できるような気もする。

バロック音楽のような旋律が冒頭に少し出てくる「House Of Flesh」は、PVも作られている。

チープで不可解なエロティックホラーといった趣だが、ヴィデオを見ながら聴くと曲の聴こえ方も変わってくるから面白い。それだけ映像の作用は力を持っているという事だろう。この曲もBPM140の明快なビートを持っていてMIXできる。声が主役だからか中域が前に出ていてキックは少し奥まっているが、ロウを少し持ち上げれば問題ない。多様な声の使い方(歌ったり、聖歌隊のように伸びやかに声を出したり、囁いたり、小さく叫ぶような声を上げたり、語ったり)が重層的に鳴り響いていて素晴らしく、彼女の声の魅力がやはりこの作品の主役である事が良くわかる、と同時にDJでも活躍しそうな一曲。連打される金属的な音もかっこいい。

妖艶な囁きの後ろで重いキックが訥々と打ち込まれる「Recital」。虫の鳴き声のような奇妙な音も鳴っている。夜の草原だろうか。しばらくして美しくも物悲しげなメロディーが奏でられた後、男性的な低い声が、それに続いて女性的な声が、タイミングをずらしながらも重なり合うようにして声を張り上げる。再び奏でられる物悲しげなメロディーが、この強い映像喚起力を備えた曲の終焉を告げる。

「Heel Spur」もBPM133辺りでMIXできそうだが、音数を抑えた変則ビートで、しかも曲が短い。でもかっこいいのでなんとか使いこなしたい一曲。伸びやかな声がクレッシェンドするようにMIXされていて、さらに囁くように歌ったりと、ここでも声の魅力が際立っている。バロック音楽的な短い曲「Descente Ferme」を挟んで、囁く声、囁くように歌う声、様々な声が折り重なる下にキックが入る「Teen Poise」。アブストラクトな音響が全体を薄く包んでいる。サンプリングされた会話の上で切ない響きのコードが少しの間鳴り、少し幼げな声が囁き、短いメロディーを口ずさんで終わる。

ピアノの短いフレーズが音階を変えながら繰り返される上で、声が重なり合い、パーカッシヴな音も入り混じり、多層的な音がサイケデリックな高揚感を生む「Liber」は短いのが難点だが、できるだけ大きな音で体験する事をオススメします。ラストの「Martali」も金属的な、何らかのベルのような音にハーシュノイズに近い音が入って来て、声も重なり、覚醒的なシンバルが刻まれ、ハーシュノイズがクレッシェンドして行くというかなりドラッギーな曲で、こちらも大きな音で聴くと効く。最後はやはり声が締める。この曲のハーシュノイズが高まり切ったところに厳ついキックぶち込むと盛り上がりそう。

インタヴューで誰からの音楽的な影響が大きいですかと聞かれた彼女は、「私はあまり誰かの名前を挙げたりはしたくない。確かにPortishead、Brigitte Fontaine、Ghedalia Tazartes、Burialなどの影響はあるだろうけれど、他の聴覚的な体験全般がより大きな影響力を持ち、無意識のレベルで作曲技法を豊かにし、美学的な選択を鋭くしているとよく思う。」と答えていて、思慮深い人だなと思った。そしてこのアルバムを作るに当たっての原動力となったものについてはこう答えている。「私は現実の生活の中では分かち合う事が難しいと思われる事をリスナーとシェアしたいと思う。音楽は、エモーショナルでエロティックな知性を分かち合うための招待状となるようにアプローチしている。偽りの無い親密さに思い焦がれながら、私は親密な対話へとリスナーを招き続けている。」

あなたも、誘(いざな)われてみませんか?
この特異な聴覚体験となる対話の彼方へ

行松陽介

 

Cecilia ? Adoration (Halcyon Veil)

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